大手路線バス会社の運行管理者を1年で辞めて転職した話
今、バス業界は人手不足と言われています。
基本的にそれはバス運転手(乗務員)のことを言っていますが、彼らを管理する運行管理者もかなりの人手不足で過酷な業務なのです。私がやっていたのはその運行管理者でした。
バスを毎日利用している人、雨の日だけ利用する人、全く使ったことのない人、いろんな人がいるとは思いますが、バス業界の現実を知っていただけたらと思います。
ちなみに現在は転職に成功し、自分の時間を確保して幸せな生活をしています。
転職については下の方に書いてあるので、興味ある方は読んでみてください。
※あくまで個人の意見です。当時のその会社を代表して話しているつもりは全くありませんので誤解しないようにしてください。
働いていたバス会社について
私は大学卒業後、新卒で某大手バス会社の運行管理者をやっていました。働いていた期間はおよそ1年間です。会社の詳しい情報は載せられませんが、東京と埼玉を中心に運行しているバス会社です。私が配属されたのは、その会社の全営業所でトップ3に入る売上を誇るかなり忙しい営業所でした。
入社してから最初の2週間
入社してから最初の2週間は、本社での研修でした。
研修とは言っても現場のことは全く教えてもらえず、会社の成り立ち、バス業界の現状などと言った大手らしい意味のない研修でした。今思えば、入社してすぐに現実を教えてしまうと辞めてしまうから言わなかったんでしょうね。
研修期間の勤務時間は本社に準ずるので、9時から18時まで(休憩1時間)で、土日祝休みでした。そして2週間の本社研修が終わり、配属先の営業所へ出勤です。同期は5人いましたが、全員が別々の営業所に配属されたので同期は0人の感覚でした。
営業所へ配属されてからの1カ月
配属されてから、最初の3日間は営業所の空気感や業務内容に慣れるため、9時から18時までの日勤でした。そして4日目から泊まり勤務が始まりました。
※鉄道やバス業界に勤めている人はご存知だと思いますが、運行管理者は基本的に泊まり勤務の会社が多いです。
私が勤めていた営業所では3人の管理者で泊まり勤務を行なっていました。
泊まり勤務3人の内訳
①当日の運行管理者。
1人目は当日の運行管理者です。
基本的に運転手の点呼を行います。泊まり勤務では1番早く寝て(22時)1番早く出勤します(4時)。
※「点呼」とは出発前の運転手さんと対面で、走る路線や注意すべき点などを確認し合うことです。この際に、運転手が酒気を帯びていないか、眠気を感じていないか、体調に問題はないかなどをチェックします。基本的にアルコールチェッカーが出勤のタイムカード替わりなので、酒気を帯びた人は出勤できません。これは実際にバスを運転しない運行管理者も同様です。
運行管理者は、事故が起こった時にまず現場に行かなければなりません。人身事故の場合は、相手方の病院まで行き、謝罪と保険の対応などもします。
噂ですが、昔は相手方との話し合いで示談になるまで帰るなと言われていたそうです。
ちなみに現在、この会社の統括運行管理者(会社を代表する運行管理者)はかつて、小学生の女の子の死亡事故を示談にした伝説があると噂になっていました。
②当日の運行管理者補佐。
2人目は当日の運行管理者補佐です。泊まり勤務では2番目に早く寝て(23時)2番目に早く出勤します(5時)。
雨が降ったり、市や区のイベントがあると極端に道が混み、バスの運行に大幅な遅れが生じます。その遅れに対し、無線で運転手に指示を出したり、代車や間隔運行などの対応をします。
また、当日になって体調不良で運転ができない人やお休みの運転手が生じた際に、休暇中の運転手さんに電話をかけ続け、代わりの人の手配もします。簡単に言うとシフトの穴埋め探しですね、運行できない路線があると国土交通省からお叱りを受けてしまうので、どうにか代わりを見つけなければなりません。
③雑務担当。
3人目は、当日の売上金をまとめたり、定期券販売等の窓口対応、お客様からの電話対応等です。いわゆる雑務ですね。お金を扱うという点では最も重要な仕事かもしれません。泊まり勤務では1番遅く寝て(深夜2時)1番遅く出勤します(8時)。
PASMOやSuicaはかなり普及していますが、2018年の当時も1日あたり現金で50万〜100万円程度の売上がありました。遅れ等が発生した際の、お客様からの電話対応はかなり多く、忙しいです。
初めての泊まり勤務
3人泊まりの1人としてデビューした私は、まず雑務担当で泊まりました。
※ちなみにこの時、まだ運行管理者資格を持っていなかったので、8月の試験に向けて勉強も同時並行でしていました。
雑務担当の基本勤務形態はこんな感じです。
【泊まり勤務の基本勤務形態】
朝11時(定時):出勤
(途中1時間休憩を2回)
深夜2時(定時):退勤
仮眠室で仮眠(一応開放時間なので自由)
翌朝8時(定時):出勤
昼11時(定時):退勤
※1度の出勤の拘束時間は24時間。
最初の3回ぐらいはこの通りの時間で勤務していたと思います。
初めての泊まり明け(通称「明け」)は非常に清々しい気持ちでした。
4回目以降の泊まり勤務の現実
慣れてくると業務も増えてきて、下記の通りになりました。
【泊まり勤務の勤務形態(現実.ver)】
朝11時(定時):出勤
夕方16時:1時間休憩(軽食)
夜21時:30分休憩(夕食)
深夜2時:退勤(そこから1〜2時間の残業)
深夜4時:仮眠室で就寝
朝7時:起床、出勤準備
朝7時半:出勤
昼11時:退勤(そこから残業2〜5時間程度)
(残業する為にまた仮眠をとることもあります。)
15時~17時:退勤(事故等があるともっと遅くなります。)
※1度の出勤の拘束時間は30~35時間。
大きな事故や雪が降ったりすると2日連続で泊まることもあります。
一切盛っていません、これがバス業界の現実です。
研修の時に本社の人事の人が言っていた「泊まり明けは他の人より早く帰れて得した気分になるよ」という嘘は未だに忘れられません。
雑務担当の具体的な業務内容
雑務担当の主な業務は下記の通りです。
- 出勤してから18時までは基本的に窓口対応。
- 定期券販売、バスツアー申込の対応。
- 営業所内の備品の在庫管理、発注。
- お客様からの電話対応。
- 折り返し場にある休憩所の備品の補充。
- 営業所内の灯油ヒーターの灯油補充。
- 深夜2時に1度目の退勤後、およそ100台あるバス車両の車内ポスター・広告の張り替え。(※ちなみにこのポスター張り替えは1人で一晩のうちに100台すべてやります。)
個人的に一番大変だったのはお客様からの「バス来ないんだけどいつになったらくるの?」という問い合わせでした。雨の日や雪の日は1日に50件以上は答えていたと思います。
出勤シフト(休暇)について
基本的に休暇は月8日間です。
1日 | 泊まり | 16日 | 明け |
2日 | 明け | 17日 | 泊まり |
3日 | 泊まり | 18日 | 明け |
4日 | 明け | 19日 | 休 |
5日 | 休 | 20日 | 泊まり |
6日 | 泊まり | 21日 | 明け |
7日 | 明け | 22日 | 休 |
8日 | 休 | 23日 | 泊まり |
9日 | 泊まり | 24日 | 明け |
10日 | 明け | 25日 | 休 |
11日 | 泊まり | 26日 | 休 |
12日 | 明け | 27日 | 泊まり |
13日 | 日勤 | 28日 | 明け |
14日 | 休 | 29日 | 休 |
15日 | 泊まり | 30日 | 泊まり |
31日 | 明け |
これは実際に私が勤めていた時のある月のシフトです。
泊まり勤務が11回。日勤が1回、休暇が8日間です。
2回連続泊まり勤務→日勤の5連勤は地獄でした。ただ、他の営業所に配属された同期から話を聞くと、3連続泊まりもあったと聞いて戦慄しました。
休みの日の希望は、前の月の20日までに提出すれば可能でしたが、暗黙の了解で2連休以上の希望は月に1度まで、そして理由を必ず記載というルールがありました。
もちろん土日は関係ありません。ちなみに入社して最初の年末12月31日も泊まり勤務でした。
運行管理者試験について
泊まり勤務を何度も繰り返していくうちに、この勤務形態に慣れてきました。ただ、3食まともに食べることができなかったことと、睡眠時間が極端に少なかったことで体力が落ち、痩せていきました。
そんな極限状態でしたが、8月には運行管理者試験があるので、その勉強を進めなければなりません。泊まり明けの夜などに過去問を何度も解いては自己採点をしていました。ちなみに使っていた参考書はこちらです。
8月の運行管理者試験を迎え、無事合格することができました。これで晴れて旅客運行管理者になります。つまり、泊まり勤務では①運行管理者と②運行管理者補佐としての泊まり勤務が可能になります。受かってからしばらくの間は、まだ事故対応等ができないため運行管理者補佐でした。
運行管理者補佐の具体的な業務内容
この時点で8月末、入社して5ヶ月が経とうとしていました。晴れて運行管理者資格を得た私は、運行管理者補佐としての泊まり勤務が始まりました。
運行管理者補佐の主な業務は先ほど書いた通りですが、主に2つです。
- バスの運行遅れの対策・運転手へ無線での指示
- 当欠者、シフト変更の対応
たった2つですが、これが地獄のような業務なんです。
運行遅れの対処・無線での指示について
基本的に、バスの遅れが生じるのは1日に2回です。
まず朝の通勤ラッシュ時間帯(7時半~8時半)です。
車の通行量が極端に増えるのでなかなか進まず、30分以上の遅れは毎日のように生じます。また、通勤のお客様の乗降が多いので停留所で止まることが多く、なかなか進みません。
そして2つ目は帰宅ラッシュの時間帯(18時~19時)です。
こちらも朝と同様に車の通行量が極端に増えることと、お客様の乗降が原因で遅れが生じます。
しかし、バスのダイヤはそれらの遅れも考慮されているので、基本的には遅れても次の折り返し運転には間に合うように作られています。
ただ、雨が降った日や、工事による片側交互通行などが運行路線で行われていた場合、さらに遅れが生じるので対策が必要になります。
想定以上の遅れが発生した場合の問題は下記の通りです。
- 時間通りの運行ができずお客様に迷惑がかかる。
- 運転手の法定休憩時間が確保できない。
1つ目はバスを使ったことのある人なら1度は感じたことがあると思います。
「時間なのにバス来ないなあ」と思って営業所に電話をかけてくるお客様がたくさんいらっしゃいました。
そしてお客様が知らないであろう問題が2つ目です。
これが結構重要な問題で、運転手が法律で決められている休憩時間をとらずに運行を続けてもしも事故を起こした場合、運行管理者の管理不足ということで大問題になります。こういった問題が続くと、国土交通省の監査が営業所に来ることがあります。
監査の結果、運行を許可される車両数が減らされる等の処罰を受けることもあるので、絶対にそのような問題は起こせませんでした。
※あまり詳しくは書けませんが、休憩時間をとらせるとどうしても運行に問題が生じてしまうときに、無線で何度もお願いをして無理に走ってもらうこともありました。
これらの問題に対する具体的な対処法は2つあります。
まず、運行状況を把握するためのシステムが下記の通りです。
バスロケーションシステムについて
バスの運行状況を営業所で把握するために「バスロケーションシステム」というシステムが大手バス会社では採用されています。このシステムは、バス1台ずつがインターネットに繋がっており、営業所で、どのバスが現在どこを走行していて、予定通過時刻より何分遅れているかが一目でわかるようなシステムです。終点到着予測時間も出てくるので、それを参考に遅れの対処を進めます。
そして遅れに対する対処法が下記の通りです。
AからBに進んでいるバスは、基本的にまたBからAに折り返し運行を行ないます。
往路 |
A 9:00発 | B 9:30着予定 |
復路 |
B 9:35発 | A 10:05着予定 |
例えば上記の通りですが、往路で9:30着予定の バスが、片側交互通行の影響で20分遅れが生じているとします。Bへの到着予定時刻が9:50になってしまうと次のBを出発する時刻9:35に間に合いません。
そういった場合いくつかの対策があるのですが、1つは代車の手配です。
営業所で控えている予備の運転手に、空いているルートで営業所からBまでバスを運転してもらい、Bを9:35発で代車として1往復してもらいます。その間、本来往復すべきだった運転手は1往復分、休憩時間になります。
この対処法は最も初歩的なものですが、雨等で運行路線全体で遅れが生じていた場合、どこで代車を使うかがキーになります。基本的に運転手は人手不足なので、待機している予備の運転手は多くて2人です。車両数にも限度があるので、全ての遅れに対して代車で対応することはできません。
そこで、すでに勤務が終了した運転手に残業をお願いし、どうにかもう少し運転をしてくれませんかと声を掛け続けます。もしくは、休日の運転手さんに電話をかけて「今から休日出勤をしてくれませんか」とお願いをして出勤をしてもらい、代車の運転をお願いします。
※ちなみに、この時に気にしなければいけない点が2点あります。
1つ目は、その運転手さんが1ヶ月間に休日出勤できる回数を超えていないか。2つ目は、その運転手さんが1ヶ月間に許されている残業時間を超えていないか、です。
つまり、とても協力的な運転手さんが居たとしても、その残業時間や休日出勤の回数を超えていた場合はお願いができません。
そして、どうしても予備者が見つからなかった場合、間隔運行を行ないます。
間隔運行とは、例えば本来1時間に5本走っている路線の運行を調整し、1時間当たりの運行本数を4本もしくは3本に変えてしまうことです。
その場合、主要なバス停留所に付いている電子の運行時刻表の電源を全て落とし、表示を消します。理由はクレームの元になるからです。
お客様には不便をかけてしまいますが、法令を守るためには仕方のないことだと割り切っていました。
当欠者、シフト変更の対応
遅れの対応だけでもかなりの業務内容なのですが、それに加えてシフトの穴埋めがあります。シフトは基本的に1か月間が決まっていますが、そこから休みたいという希望が運転手から出てくるので、その対応をします。
私が勤めていた営業所では、運転手の休み希望は全て受け入れるということが暗黙の了解だったので、代わりの人を見つけることに苦労していました。
自分が泊まる日から1週間先までのシフトの穴埋めが義務だったので、自分が運行管理補佐として勤務している時間にきたシフト変更は、完了するまで退勤はできませんでした。
次の人に引継ぎをする直前で、翌日のシフトが空いた場合は地獄でした。基本的に運行管理補佐の泊まりでは、明けで6~9時間程度の残業が確定していました。
常に、いつシフトに穴があくか分からないという状況がとてもストレスでした。
入社して半年以上が経過
12月頃、運行管理補佐の業務に悪戦苦闘しながら勤務を続けていました。運転手は体調第一なので風邪等ではすぐに休めるのですが、運行管理者は風邪では休めませんでした。「俺は昔、インフルエンザでも出勤していたんだぞ」とドヤ顔をしていたおじさん(先輩)や、「残業しないなんてあり得ない!」という先輩を見て、初めて「ここはまともな会社じゃない」と感じ始めました。
転職を考え始める
- 考え方が昭和のまま止まっている先輩たち
- いつ事故が起こるか分からない不安
- いつシフトに穴が開くか分からない不安
- 常識が通用しないモンスタークレーマー
こういったことが重なって、転職を考え始めたのもこの頃でした。
2019年の1月頭、「エン転職」や「マイナビ転職」等に登録しました。
昭和な考え方の会社だったので、辞める時に困ると思い退職代行も登録しました。
reフレッシュ転職というサービスで、退職代行から転職までをサポートしていただけるということで登録しました。結局、無料の面談だけでしたが、この面談でかなり救われました。
転職活動開始から退職まで
日々の業務にストレスを感じ、胃に穴が空きそうになりながらも転職活動を続けていました。運行管理者としての泊まり勤務をやらないかと営業所副所長に言われていましたが、「今の業務でいっぱいいっぱいです」と、断り続けていました。
ちなみにこの時点で、私を含め5人いた同期のうち2名が退職していました。営業所も違う上に、休日も不規則なため、同期同士で励ましあうことや愚痴を言い合うこともできませんでした。もちろん辞めていった同期たちも私たちには一切の相談なく消えていきました。
そして私を含む残り3名のうち1名は女性でしたが、精神的に病んでしまい、うつ病の診断を受けていました。しかし、営業所の所長が休ませてくれず、勤務し続けていたそうです。彼女は当時、毎晩泣いていたそうです。
私は、泊まり明けで寝不足かつ疲労困憊の状態でも必死で面接を受け続け、現在の会社に転職できました。
そして2019年3月、ちょうど入社から1年が経とうとしていた時に退職しました。
結局、同期の女性もその数か月後に退職したそうです。(ちなみに彼女も無事、転職できたと後日聞きました。)
この記事を通して言いたいこと
バス業界には多くの問題があります。
- 運転手不足
- 運転手の高齢化
- 赤字路線の増加
- お客様の高齢化による車内事故の増加
- 運行管理者の業務過多
これらの問題はすぐに解決する問題ではありません。会社だけでなく、国が対策すべき問題だと思います。
運行管理者になることをオススメしないとは言いません。バスが大好きで、その業務に触れてみたいという人は少なからずいると思います。
しかし、「大手だから」「潰れることはないから」「安定しているから」といった理由でバス会社の運行管理者を志望している人は、この記事を読んでも志望できるかということを考え直してほしいと思います。
また、普段路線バスを利用しているお客様は、バスの運転手だけではなく営業所でも死に物狂いでバスの運行を確保しようとしている人たちがいるのを知ってほしいと思います。
バスが時間通りに来ることは当たり前ではありません。誰かが自分の大事な時間を犠牲にして、ぎりぎり運行が出来ていることということを知っておいてください。本当はこのギリギリで運行させている会社がいちぱんの問題なんですけどね。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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たかはしでした。